とっちゃんファーム 
−青空とそよ風と大地と−

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育苗と本圃の管理
目次
(1)育苗資材 
(2)電熱温床 
(3)気候の変動 
(4)牛糞堆肥 
(5)肥料 
(6)成長促進資材 
(7)耕土 

キュウリの夏
目次
(1)品種 
(2)育苗 
(3)定植 
(4)定植後5週目 
(5)盛夏のキュウリ 
(6)呼び接ぎによる接ぎ木 
(7)断根割り接ぎ 

メロンを露地で
目次
(1)品種 
(2)栽培 
(3)ネットメロンの露地栽培 
井戸を掘って
目次
 (1)製作した井戸掘り器 
 (2)地表面から2.2mまで 
 (3)2.2mから2.5mまで 
 (4)2.5mから2.7mまで 
 (5)2.7mから3.3mまで 
 (6)3.3mから6.2mまで 
 (7)井戸枠の交換 
 (8)畑地への灌漑 
 (9)井戸の掘り下げ 
(10)6.5mの壁 
(11)設備の更新 
(12)6.4mから11.7mまで 

トマトの実は
目次
(1)品種 
(2)育苗 
(3)定植 
(4)開花 
(5)実が大きく 
(6)大玉トマトの接ぎ木 
(7)接ぎ木苗の生育 
(8)ミニトマトの紅小丸 
ニホンミツバチとともに
目次
 (1)重箱型巣箱 
 (2)巣枠式巣箱 
 (3)蜂玉の収容 
 (4)蜜蝋による誘引 
 (5)キンリョウヘンによる誘引 
 (6)ミツバチの飼育履歴 
 (7)蜜蜂飼育届を 
 (8)女王蜂の不調には 
 (9)ニホンミツバチの人工分蜂法の概要 
(10)養母を利用する人工分蜂の実際 
(11)実姉を使った人工分蜂の実際 
(12)早春の人工分蜂 
(13)逆巣型の人工分蜂 
(14)山都式(上桟式重箱法)の人工分蜂 
(15)分蜂の瞬間から蜂玉の捕獲を経て 
(16)分蜂群の飛来が4年ぶりに 
(17)金稜辺で誘引されたミツバチ群 
(18)真夏の人工分蜂 
(19)小ぶりな重箱型巣箱の製作 
(20)分蜂群はいずれの巣箱に 

イチジクの長い実は
目次
(1)バナーネ 
(2)ブラウンターキー 
(3)ロードス 
茄子の花は
目次
 (1)品種 
 (2)育苗 
 (3)ポット鉢上げ 
 (4)定植 
 (5)成育中 
 (6)定植後7週目 
 (7)定植後2ヶ月半 
 (8)ナスの接ぎ木 
 (9)フィルムを利用した接ぎ木 
(10)接ぎ木苗の生育 

温室で育つのは
目次
 (1)温室 
 (2)バナナ 
 (3)パパイア 
 (4)マンゴー 
 (5)ファレノプシス 



 
   井戸を掘って   
 河岸段丘(*1) の上面には、畑地と自宅を含む集落がモザイク状に広がっている。 一方、河岸段丘の下面は主として水田であり、段丘崖から相当離れた所を比較的大きな河川が流れている。 その河は水田よりも低い位置を流れている。 その河から用水を導入するために、先人は多大の努力をしなければならなかった。

 段丘崖(*2)の上面にある畑地の水利条件はよくない。
 自宅に近接したところに野菜畑(いわゆる、キッチンガーデン)がある。 この畑は、自宅から直接送水できる位置関係ではない。 そこで野菜畑の一角に、自力で井戸を掘ることにした。 この井戸を使った畝間潅水によって、旱魃にも対応できる。
 井戸の形式には「掘り抜き井戸」や「打ち込み井戸」、「打ち抜き井戸」などがある。
 掘り抜き井戸(*3) は、人が中に入れる大きさの穴を、下に向かって掘っていく。 穴が崩れないように、掘る度に井戸枠を設置する。 この掘り方は、堀り揚げる土量の多さ、井戸枠を設置する方法、井戸掘り中の事故の可能性など、素人にはハードルが高い。
 打ち込み井戸(*4) は、先端部分に穴を開けた鉄管を杭打ち機などを使って直接打ち込むか、ボーリングによって地中深くあけた穴に吸水用のパイプを挿入する方法である。 取水領域が狭い範囲に限られていることから、沖積層地帯や湧水が近辺に見られる地域など地下水が豊富であるといわれているところに向いている。 これ以外の場所では、地中深く掘削する場合を除いて、充分な取水量が確保できる可能性は小さい(*5)
 打ち抜き井戸(*6) は、古くは「上総堀り」に代表される方法である。 この方法が「打ち込み井戸」と異なる点は、「打ち込み井戸」が吸水用のパイプだけであるのに対して、「打ち抜き井戸」は吸水パイプに加えて小口径の井戸枠用パイプを使用する点である。 井戸枠があれば、取水に有利であるだけでなく、井戸さらいなどの井戸のメインテナンスが容易となる。 掘削時にも、帯水層に達したことが、容易に確認できる。 掘り揚げる土量も「掘り抜き井戸」ほど多くなく、井戸の崩落による事故の可能性もほとんどない。
 ということで、「打ち抜き井戸」による井戸掘りに挑戦してみた。
 

(*1) 河岸段丘の「段丘上面」は、段丘崖に近い所が一番高くて、それから離れるに従って緩やかな下り傾向にある。 この「キッチンガーデン」よりも自宅の方が段丘崖に近いので、キッチンガーデンの標高は、自宅よりも、1〜2メートル低い。
 「段丘下面」には、この段丘を形成した比較的大きな河が、段丘崖から相当離れたところを流れている。 段丘崖と河との間は、ほぼ平坦な水田地帯である。 段丘崖に近いところでは粘土質で地下水位も高いが、河に近づくに従って砂壌土の乾燥気味な耕土に変化するとともに微高地も見られる。 微高地では、畑地などとして利用されているところが見られる。

(*2) 上段と下段に約7mの比高がある。

(*3) 掘り抜き井戸の例としては, 「手堀り井戸掘り」 や 「井戸掘っちゃいました・・・ひとりで」 、 「井戸掘りにチャレンジ」 、 「井戸掘り−1」 などがある。

(*4) 機械を使わずに人の力でおこなった例として、 「井戸掘り、人力で出来る井戸掘り法」 などがある。

(*5) 透水層である砂の層が、ある程度厚く、広く存在しているのであれば、取水できる可能性は高い。 取水量に関しても、鉄管先端が明瞭な水脈に当たればよいが、細かい砂の間隙からしみ出すような状態では多くは期待できない。

(*6) 打ち抜き井戸の例としては、 「自分で出来る打ち抜き井戸の掘り方」 や 「井戸掘り(打ち抜き)報告」 、 「DIYで井戸掘り−打抜き井戸」 、 「打ち抜き井戸の掘り方(自分で井戸を掘ってみませんか)」 、 「素人の打ち抜き井戸掘り」 、 「井戸掘り」 、 「井戸掘り」 、 「自分で井戸掘り」 、 「井戸掘り」 、 「ビオトープの池と井戸掘り」 などがある。


(1)製作した井戸掘り器

75mm接続ソケット

65mmキャップ
 井戸堀り器には、塩ビ75mmのパイプとその接続ソケット、65mmの塩ビパイプ用キャップを使用した。 弁には、ホームセンターで入手できる厚さ3mmの黒ゴム板を用いた。 掘削用の金具は、同様に、ホームセンターで入手できる安価で丈夫な厚さ2mmの耐震金具を加工して使用した。
 75mmの接続ソケットの内径と65mmのキャップの外径が、ちょうど一致(*7) している。 この65mmキャップに穴を開けてゴム弁を取り付け、75mm接続ソケットの中央部に嵌め込む。 75mm接続ソケットの一方には掘削用の金具を取り付ける。 反対側には、掘削した土砂を収容するための75mm塩ビパイプを接続する。 ソケットとパイプとの接続は、接着剤を使用しない(*8)。 別のタイプの井戸掘り器と取り替えるなど、簡単に分解できるようにするためである。
 井戸堀り器の基本的な構造は「打ち抜き井戸」のホームページに記されているもの(*9) と、ほぼ同じである。 大きな違いは、土砂抜き用の横穴を開けなかったことである。
 これと接続する延長用のパイプは、やや太めの塩ビ25mm長さ2mのパイプを必要本数だけソケットで接続して使った。
 

(*7) 75mm塩ビ接続ソケットのメーカーによっては、内部中央のパイプセパレーター用突起が高いことがある。 その場合,65mm塩ビキャップがその中に収まらない。 別のメーカー品を使用するか、その突起が低くなるまでを削り落とす必要がある。

(*8) 接着剤なしでの接続では、接続部分で外れてしまう可能性がある。 もし外れてしまった場合には、生検鉗子で組織を摘む要領で、井戸底まで届くパイプを用意して、そのパイプの中を通したワイヤー先端の「輪」を、外れてしまったものに引っ掛けた上で、その輪を引き絞ることによって回収することができる。

回収方法
GL:地面
:落としてしまった器具
:回収用パイプ
:回収用針金ループ(ループを井戸枠一杯に広げたままで,井戸底まで下げていく)
:針金の上端(Dのところで針金を引っ張って,ループを絞る)

(*9) たとえば「井戸掘り器の製作」など。


厚さ3ミリのゴム板

耐震用の金具


井戸堀り器

井戸堀り器の先端

井戸堀り器の掘削部

井戸堀り器の内部
(キャップに開けられた穴と
それに取り付けられた
ゴムの弁が奥の方に)

断面図
:75mmVU管
:75mmソケット
:65mmキャップ
:厚さ3mmのゴム弁
:掘削金具固定用のボルト
:厚さ2mmの掘削金具

(2)地表面から2.2mまで
 スコップで、先ず、直径30cm深さ50cmほどの穴を掘る。
 この穴に水を満たす。 井戸掘り器で底を突く。 泥混じりの水が井戸掘り器に満たされた時点で、引き上げる(*10)。 支持棒側を下に(井戸掘り器側を上に)する。 井戸掘り器中の泥水は、(井戸掘り器の横穴は設けられていないので)直径25mmの塩ビパイプを通って流れ出す。 この方法は比較的広い場所を必要とするが、井戸掘り器の横穴から泥を掻き出す厄介さを解消できる。 したがって、泥水が流動性を持った状態に保つ必要がある。 そのため、水を加える量を加減しながら、これを繰り返す。
 この方法で、1m/時間程度の速度で掘り進められた。
 

(*10) この方法は、土の部分を掘るのに有効であった。 多少の砂を含んでいる場合でも使える。
 砂が多いときには効率が落ちるし、小石が混じっているとこの方法は有効ではない。 原因は、井戸底を掘る部分(三角形に尖っている部分)とゴム弁との間に距離があって、砂や小石がゴム弁の上まで持ち上がらないためである。
 このため、砂や小石がある場合には、

(1)掘削金具の「三角形の部分」を小さくして、「掘削部分」と「ゴム弁」との距離を縮める。
 掘削によって浮き上がった砂や小石が、掘削に伴う水流によって、ゴム弁の上に揚がる。 この方法では、上向きの水流が弱いので、1回に拾える砂や小石の量は、多くない。

(2)エンジンポンプを使う。
 井戸掘り器とその接続パイプそのものをポンプの吸水管とする。 ポンプによる吸い込み速度を利用できるので、小石などが混じっていても、強い水流で、それらが井戸掘り器内に取り込める。 ただし、大量の水を吸い上げることになるので、それ相当の水が湧いてくる状態か、汲み上げた水を掘削部分に戻す処置が必要になる。 また、5mm以上の小石が、ポンプ部分に流れていかない工夫をしなければならない。

 など、一寸した工夫をしないと掘り進められない。


(3)2.2mから2.5mまで

タガネ付き突き棒

平タガネ付き突き棒
 掘削速度が、ここで、激減した。
 底を突くと、コツンコツンという音。 石に当たっているにしては、やや音が違う。 石膏(セッコウ)を叩いているような音だ。 小さな塊状の石膏なら叩けば簡単に割れてしまうが、地層だと連続している塊であるので、叩いても「ひび」が入る余地がないから、割れてくれない、そんな感じだ。 ひょっとすると、みがき砂の層かも知れない。
 もしみがき砂の層だとすると、固まった状態では水を通さない非常に硬いもの(*11) であるので、これの掘削は難儀することになる。
 この層を突破するために、タガネを先端につけた突き棒を用意した。 このタガネを保持する部分も、耐震金具を使用した。
 タガネを突き立てても、ほんのわずかな穴があくような感じで、掘れている感触はない。 強く突き立てると、タガネがこの層にくい込んでしまって、簡単には抜けなくなる。
 このような場合には、斜めから削ぐように突き立てると、少しずつ削れていくのであろうが、井戸では真上からしか突き立てられない。
 螺旋型の穴掘り器も試みた。 この層の堅さには歯が立たない。 無理をすると金具が曲がってしまうだけだ。 これは不適当であった。
 この層が10cmで終わるか、50cmあるか、2mも続いているか、まったく分からない。
 この層では、掘削速度は、平均して1cm/時間以下(*12) であった。 挫折しそうになる。
 

(*11) みがき砂の層が数メートルとなっている地区では、みがき砂の採取後のトンネルが湿気が少なく頑丈であることを活用して、戦時中、戦闘機の製造工場として使用されていたという。 たとえ1トン爆弾が投下されても大丈夫であるとのことであった。
 そのような層であると、その層が不透水層となって地下水が滞留していることになる。 その地下水を利用するか、不透水層を突き抜けてその下部にある地下水を利用するか、決断しなければならない。

(*12) ここで、エンジンポンプが使える場合には、ポンプの給水口(ポンプ出口)から井戸底までパイプを設置して、パイプから井戸底に向けて水を噴射する。 それによって、みがき砂様の層を徐々に崩し掘っていく。 それをポンプ吸引側のパイプで吸い上げれば、効率的に掘ることができるようだ。


耐震金具

接続部分


螺旋の穴掘り器

(4)2.5mから2.7mまで

底浚い用井戸掘り器
(先端からゴム弁まで
の距離が非常に短い)
 みがき砂様の地層になって30cmすぎて、「みがき砂様+小石」の層になった。 「雷おこし状態」である。
 タガネで突くと、小石がポロポロと外れるような感覚。 その小石が浮いたところで、「底浚い用井戸掘り器(*13)」で、その小石をすくい取る作戦である。 底浚い用井戸掘り器は、左の写真に示すように、ゴム弁が可能な限り井戸の底に近づくように作ってある。 ゴム弁が離れていると、小石をゴム弁の内部(ゴム弁の上方)まで持ち上げることが困難になって、拾える小石が少なくなってしまう。
 この層では、1cm/時間の掘削速度であった。 この深さで地下水がどんどん浸み出してきた。 予想していた地下水の湧き出し深さ(*14) よりも、異常なほど浅すぎる。 予想していなかったことである。
 

(*13) 底浚い用井戸掘り器の先端には、右回りに回転させると石などが内部に持ち上げられるように、角度のついた金具が付いている。

(*14) 段丘崖の比高である約7mから考えて、7m以上の深さまで掘削した時点で、水が湧いてくるものと思っていた。 予想外に地下水が高い。 自宅の井戸も、5間(9.0m)の深さに(井戸掘り業者により掘り抜き井戸で)掘ってあるはず。 この高さの地下水は段丘崖斜面から滲出してしまうはずで、定常的には存在していないものと思っていた。


(5)2.7mから3.3mまで

石浚い

出てきた石(水磨礫?)
 礫主体の層に変化してきた。
 礫を引き上げるために、熊手を用意した。 これは潮干狩り用の熊手の取っ手を、塩ビパイプを使って長くしたものである。
 タガネで礫を浮かしておいて、熊手で拾い上げるのであるが、予想以上にうまくいく。 礫周りが柔らかいときは、この熊手でゴリゴリするだけで礫が浮いて熊手の上にのっかってくれる。 湧水が多くなってきているので、水に隠れて、手探り状態での礫拾いとなってきた。 礫が熊手にのっているかどうか、まるでゲーム感覚
 井戸の中の水が多くなってきたので、エンジンポンプを使い始める。 水を抜けば、深さ3m程度なので、礫を見ながら拾い上げることも可能だ。 礫の大きいものは、握り拳2個分ほどもある。 礫には角がなく(角張っていない)、それは河原の礫(水磨礫)と変わりがない。 太古に、河の流れにのって、ここに堆積したのであろうか?  河原の礫とすると、その河(*15) は何処に? 
 「礫層にぶつかったので、その時点で掘削を終了した」との記述が、幾多の井戸掘りホームページで見られるが、こんな方法で突破できるかも知れない。
 礫拾いに時間がかかって、平均して5cm/時間である。 湧出量は、約20リットル/分(約350ミリリットル/秒)である。 菜園畑の井戸としては、もう少し出て欲しい。
 

(*15) 河岸段丘を形づくった比較的大きな河以外に、特に河岸段丘上面にはそのような礫を運んでくるような川は存在しない。 可能性のあるその河は、比高約7mの段丘崖の下面側を流れているから、数メートル以上の高低逆の関係となってしまう。 河に近いところの水田は砂壌土であるが、段丘崖に近い所では粘土主体の埴土である。



井戸の状況

井戸の水面

(6)3.3mから6.2mまで

井戸枠を入れる前
(水を汲み出した直後で、
通常の水位はもっと上方)
 地層が、ようやく、「細礫+砂+土」になった。
 エンジンポンプの給水口にフレキシブルチューブを介してパイプを接続する。 そのパイプ先端からの水流で井戸底を掘り起こす。 掘り起こされた細礫を含む泥水を、同じエンジンポンプで汲み出す。 「井戸底の掘り起こし」と「泥水の排出」を交互に繰り返すことで、非常に効率的に掘り下げることができる。
 5m付近で赤色の泥水が排出される。 この赤色の地層が「アカホヤ火山灰層(*16)」であったなら、太古のロマンが感じられる。
 全体の平均掘削速度は、おおよそ15cm/時間である。
 深さが6mを越えた所で、180mmのライト管(*17) を井戸枠として挿入する。 砂と土が主体の層になってきたので、井戸枠の挿入によって井戸枠面からの土砂の崩落を防いで,さらに深く掘るつもりである。 井戸枠に合わせて、エンジンポンプを固定する。
 ところが、その翌週に更に掘削しようとすると、井戸掘り器が井戸の底まで降りていかない。 井戸枠の下部が、水圧と土圧で押し潰されているようだ。 数センチメートル程度の隙間に、狭められてしまっている。 このため、井戸掘り器が井戸底まで下げることができなくなった。 一応の完成とするか、別の手段を使って更に掘り進めるか、思案中である。
 汲み上げ量(1時間値)は、約0.9m3/時間(約15リットル/分、約250ミリリットル/秒)である。
 

(*16)「あかほや」と呼ばれる濃いオレンジ色の火山灰層は、7300年前の九州・鬼界カルデラでの噴火に伴うものである。 鬼界カルデラのこのときの噴火に伴う総噴出量は54km3で、これは琵琶湖の貯水量の約2倍である。 偏西風にのって、東北地方まで広がっている。 九州南部においては厚さ約1mの層をなし、四国、中国地方西南部および紀伊半島においても層として確認できる。 当地では、おおよそ20cm程度の層をなしているということである。

(*17) ライト管を使ったのは不正解であった。 水圧と土圧で、ライト管の一部が押し潰されてしまった。 井戸掘りをしたホームページ上の多くの先達が注意してくれているにもかかわらず、パイプ重量購入価格からライト管を選んでしまった。
 井戸枠の大きさである180mmのパイプの使用は、井戸枠内部に溜まる水量の観点から選定した。 それでの貯留水量は、100mmの井戸枠を使った場合と比べると、数十リットルだけ多い。 汲み上げ時間にして3分に相当する量である。 結果として、井戸枠の大きさよりも、それの強度を重視すべきであった。
 今、100mmVP管を挿入しようかどうか迷っている。 100mmVP管を180mmライト管の内部に入れて、打ち下げることで潰れた部分を広げられる可能性があるから。


井戸上部の様子

エンジンポンプの設置

(7)井戸枠の交換
チェーンブロックで引き抜いたライト管

ライト管の潰れた部分(引き上げた後に切断)
 井戸枠の下部が押しつぶされているようなので、思い切って取り換えることにした。
 と言っても、ひしゃげたライト管の井戸枠は、簡単には抜けてくれない。 そこで、地上に出ているライト管部分に大きめの穴を開けて、できるだけ太いロープを通した。 薄っぺらいライト管なので、一ヶ所に大きな力が加わると、そこから裂けてしまう可能性があるから、力の分散が肝だ。 そうしておいて、チェーンブロックを使って、引き抜く作戦。 ロープを通しているライト管部分が壊れない程度に力を掛けて、ゆっくりとゆっくりと慎重に引き抜くことになる。
 引き抜いたライト管の下部を見ると、見事にへしゃげている。 土圧・水圧の大きさには、ひとたまりもなかった。 井戸水を汲み上げる前では、ライト管の内外に水が満たされているので、ライト管の外側と内側の力は釣り合っている。 井戸水を汲み出すとライト管内部の水量が減少し、内側の水位が外側よりも4メートルほど下がってしまう。 すると、ライト管下部では、長さ方向に10センチメートル当たり約200kgf(キログラム重)の力が、外側から内側に掛かる。 大人3人の重さに相当する力である。 ライト管が真円であれば潰れることはなかったかも知れないが、ほんの僅かな歪みの存在が力のバランスを崩してライト管をひしゃげてしまうことになる。 もし使用したライト管の直径が10センチメートル程度であったなら、その力は半分近くに減少し、管径に対する肉厚の比が大きくなって、このようなことにならなかったものと思われる。
 

新しい井戸枠
外側から順番に
180mmのライト管
150mmのソケット
150mmのVU管
吸水用の40mmVP管

井戸枠(拡大)

新しく設置した井戸枠
GL:地面
:180mmライト管
(長さ2m:地面に固定)
:150mmソケット
(上部VU管延長用)
:150mmVU管
(ライト管中を下降)
:150mmソケット
(下部VU管補強用)
:40mmVP管
(吸水用パイプ)
井戸を掘っていくと、B-C-D部分が、
Aの中を、滑って下りてゆく。

井戸枠の継ぎ足し
:150mmソケット
:150mmVU管
:接着剤を塗布
150mmVU管「G」に
ソケット「F」を接着する。
そのVU管「G」の下部外周部分に
あらかじめ接着剤を塗布してから
井戸枠「B」に挿入する。
 壊れたライト管を抜いた井戸穴に、180mmの新品のライト管(長さ200cm)を入れる(左図新しく設置した井戸枠のA)。 このライト管は、地上で固定しておく(井戸の下の方に落ちていかないように)。 これは、地面付近の土留めのためだ。
 その中に、井戸底まで届く井戸枠として、150mmのVU管を入れる(左図のC)。 VU管の最上部(地上側、左図B)に、新しいVU管を接続するための150mmVU管用のソケットを接着しておく。 必要に応じてVU管を継ぎ足しする。 VU管の最下部(井戸底、左図D)にも、力学的な強度を持たすために、150mmVU管用ソケットを接着する。
 180mmライト管内径と、150mmソケットの外径とには、5mm程度のちょうどよいクリアランスがある。 ライト管とVU管とは、接着しない。
 井戸底を掘っていくと、150mmVU管(左図C)が徐々に沈んでいく。 左側写真の時点で、VU管は、ライト管の上端から20cm下まで沈み込んでしまっている。 VU管が沈んでいっても、ライト管があるので、井戸上にある土砂が井戸内に崩れていくことはない。 VU管が100cm沈んだ時点で、長さ100cmの新しい150mmVU管を、上部にソケットを付けて継ぎ足す。
 このようにすることによって、地上部分に出ている井戸枠高さを、最小限に抑えることができる。
 井戸枠が地上高く出ていると、脚立などに乗らないと井戸掘り器の出し入れができないので、井戸を掘る手間暇が何倍にもなる。 井戸枠の継ぎ足しを短い長さでおこなえば、井戸掘り器の出し入れは支障なくなるが、度々の継ぎ足しが必要になる。 ここで用いた方法は、井戸掘り器の出し入れが容易で、度々の継ぎ足しが不必要なことで、優れている。
 

吸水管のぞき窓

のぞき窓(拡大)
 吸水管の最上部に、吸水状況を見るための「のぞき窓」を取り付けた。
 「チーズ」を使用して、丸く切断したアクリル板を、「チーズ」のソケット部分に2液型接着剤で固定した。 この接着剤は、硬質塩ビとアクリルとを強く接着でき、その上、この部分は陰圧が働いているので、外れてしまう恐れはない。
 井戸枠を入れ直した時点での揚水量は、最大600L(20分間値)である。 定常(1時間値)では、約0.5m3/時間(約8.6リットル/分、約140ミリリットル/秒)である。
 井戸枠を入れ換える前よりも少なくなっている。 入れ換え時に井戸の中に土砂が崩れていって、1mほど浅くなってしまったことによる。 また、初秋から春の今まで、例年以上に雨が降っていないことも影響しているものと思われる。
 そこで井戸底を浚って、井戸枠を入れ換える以前の深さまで戻したところ、1時間値で、約0.9m3/時間(約16リットル/分、約260ミリリットル/秒)まで増加した。 寡雨であった冬〜晩春の頃を考慮すると、多すぎると思われる水量(*18) である。
 

(*18) 畑の井戸を自宅の井戸と比べると、自宅の井戸は10m近い深さであるが連続しての汲み上げ量は1m3以下であって、井戸の深さを考慮すると畑の井戸の方が水量が多いようだ。
 一般的に、地震断層の部分では、地層のずれによって不透水層が分断されるためか、みず道ができてしまうことがある。 その断層線に沿って、水分が多そうな地形が形成される。 ある推定地震断層では、周りはまったくの畑地であるにもかかわらず、その断層線に沿って帯状にかっては水田として利用されていたところがある。 それを数キロメートルほどたどっていくと、谷筋となって年中湧水が見られ、湿地となっているところもある。 その湿地帯は、校地や建て売り住宅用地として、埋め立てられてしまったが・・・。
 井戸の地点から数十メートル離れたところにも、手前が高くて向こう側が低くなっている1m弱の段差があり、それが集落の外れを数百メートルの長さで真っ直ぐに続いている。 これが、地震断層であるとすると、自宅の井戸に比べて、この井戸があまり深くないのに水量が多い理由が理解できる。


(8)畑地への灌漑

塩ビ配水管

止水栓

蛇腹管による配水
 打ち抜き井戸のある畑の下手から、畑の上手(*19) まで、25mmの塩ビ管を敷設した。 総延長は、約40mである。 この25mmの塩ビ管は、作物が植えてある部分では、耕耘機で耕転する時に爪で引っ掛けないほどの深さに埋めてある。
 洗濯機などの排水に使用する蛇腹チューブ(直径32mm、長さ20m)を用意した。 この蛇腹チューブを25mm塩ビ管の出口に繋ぐ。 このチューブは畑の上を、潅水する場所まで引っ張っていく。 軽い、自由に引き回せる、折れて水が止まってしまうことがない点で、非常に重宝な資材である。 25mmの塩ビ管の外径と32mmの蛇腹チューブの内径がほぼ一致しているので、ねじ込んで接続するのに都合がよい。
 左に、25mmの塩ビ管(延長40m)と32mmの排水用チューブ(長さ20m)を繋いだ総延長60mの配水経路の出口の状況を示す。 配水経路が長いので、潅水量はこの程度である。
 1.6m3/時間(約27リットル/分、約450ミリリットル/秒)である。
 梅雨明けから6週間もの間、ほとんど降雨がなかった夏。 平均すると、このような夏は、3年に2回程度の頻度である。 最近では、2000年、01年、05年、06年、08年、09年、10年などである。 水の好きなサトイモ(里芋)やショウガ(生姜)、ニンジン(人参)などは、降雨が少ない夏では、生育がまったく良くない。
 ところが、このような少雨の夏であっても、これらの作物に灌漑することで、良好な生育状況に持っていける。
 サトイモの葉が、座布団ぐらいの大きさまで育つと、立派な里芋が収穫できる。 乾燥した夏の年にあっては、サトイモの葉は週刊誌大の大きさであって、その数も少なく、親芋はともかく、小芋はピンポン球程度にしか育たない。 それが、畝間に潅水してやると、サトイモの生育が旺盛になって、次々と芽が出てくる。 葉も、目標に近い大きさに育ってくる。 晩秋の里芋の収穫が、楽しみである。
 9月時点でのショウガは、畝間への潅水効果で、この夏の少雨を感じさせない生育状況である。 灌漑設備のないときの少雨の夏には、ショウガの株が貧弱で、1株で数本程度しか茎が出ていない上に、それも病気で枯れかかっているのが普通であった。 それが、灌漑の効果で、ショウガは、最近で一番の多雨冷夏の夏であった1980年の生育と同じ程度に育っている。 手前がオタフクショウガ(お多福生姜)、向こう側がコショウガ(小生姜)である。
 8月初めに播いたニンジンの1ヶ月後の様子。 しっかり潅水したことで、ニンジンが順調に生育している。 これで、正月料理には、立派な人参を使える。
 苦労して井戸を掘った甲斐があるというものだ。 以前でも干ばつの夏があったが、最近はその頻度が増えているような気がする。 降雨によって、畑地の深いところまで水が浸透する目安は、降水量が1日に5mm以上の雨である。 5mmの降水量を水の量に換算すると、1反(1,000m2)あたり、5m3(5,000リットル)である。 この井戸では、その揚水量から、おおよそ3時間分に相当する。 これだけの降水量を記録する日数が、減っているようである。
 9月の下旬。 通常の露地栽培であれば、ナスは終わっている。 この畑では、接ぎ木ナスの使用と充分な畝間への灌水で、まだまだ元気に育っている。 もっとも、ナスは暑い最中に食べるから美味しいのであって、いくら新鮮なナスであっても、沢山に食べられるものではない。 まあ、普段からお世話になっている方々へのお返しに、重宝しているといった具合である。
 今後、少雨の夏となったとしても、安心できる。
 

(*19) 畑の最も高い位置から、傾斜に沿って畝間を流れるように潅水する。 畝間を通した潅水であるので、作物の根元に直接潅水する方法に比べると、必要な水量が多くなる欠点はあるが、この方法だと、潅水中に、別の農作業ができる。


灌漑水

畝間への灌水

手前はラッキョ、右側の列はニンニク

9月初旬の生育状況

サトイモ

ショウガ

ニンジン
9月下旬では

9月下旬の畑(右列:ナス、中列:ショウガ、左列:里芋

(9)井戸の掘り下げ

赤土粘土
 井戸を更に掘っていくと、6.2mの位置で、赤土の粘土層(これも火山灰由来か)となる。
 6.4mになると、「赤土粘土」に「細礫+砂」が混じった層となる。 「赤土粘土」は、泥水として、エンジンポンプで吸い上げることができる。 細礫や砂は、(4)で使用した「底浚い用井戸掘り器」を使うと、掘っていける。
 6.5mで、「赤土粘土」と「砂」からなる層に突き当たる(6.4mでの細礫を含む砂の層よりも下の層である6.5mに、細礫をほとんど含まない砂の層が横たわっている)。 同じ赤土粘土で固められた層であっても、「砂+赤土粘土」の場合には、細礫を含む層に比べて、掘削速度が落ちてしまう。 細礫を含む層では、「底浚い用井戸掘り器」の刃が、細礫の出っ張りに引っかかって、ポロッポロッという感じで細礫が剥がれるように掘れていった。 ところが、砂では出っ張りがほとんどないので、滑ってしまって、歯が立たない。 勢いよく打ち込んでも、「赤土粘土」で跳ね返されてしまう(*20)。 (1)で用いた「井戸掘り器」は先が鋭いので、このような層を掘り起こすには都合が良さそうだが、掘削先端からゴム製弁まで距離があるので、砂を「弁」内に取り込み難い。 これに適した別の井戸掘り器を、考え出さなければならないようだ。
 

(*20) 砂混じりの赤土粘土は、コンクリートのようだ。 井戸掘り器に加えた力には、砂が抵抗する。 その砂を接着しているのが、赤土粘土である。 硬さを砂が、粘着性と弾力性を赤土粘土が、それぞれ受け持っているようにみえる。


細礫混じりの砂
(6.4m付近)


(6.5m付近)

(10)6.5mの壁

作り直した井戸掘り器

先端の正面
(黒い部分がゴム弁)
 6.5mで、「赤土粘土」と「砂利」からなる層に突き当たった。 砂を粘土で固めたような地層である。 「粟おこし(岩おこし、雷おこし)」様である。 細かく(粟のように)砕いた米が「砂利」で、固めるための水あめが「粘土」である。 井戸掘り器を勢いよく打ち込んでも、「砂利」部分で跳ね返されてしまい、井戸底に食い込んでいるという感触ではない。 わずかに砂が浮き上がっているといったところか。 回転させて削り取ろうとしても、「粘土」の上を滑ってしまうだけである。 「砂利」だけであれば打ち込みによって容易に掘れるし、「粘土」だけであっても打ち込みと回転で掘り進んでいける。 しかしこの地層は、剛の「砂利」と柔の「粘土」が協力して、掘削を妨げているようである。 まったく、歯が立たない。
 食い付きのよい井戸掘り器を、作ってみた。 ゴムの弁などは、今までのものと同じである。 「(1)手始めに製作した井戸掘り器」では先の尖った井戸掘り器を使ったが、ここでは井戸底との接触面積が多い直線状のものにした。 また、浮き上がった砂を井戸掘り器中に取り込みやすくするために、井戸底とゴム弁との距離を可能な限り短くしてある。
 これを使って、コツコツと掘り下げていくしかない。 砂は井戸掘り器の中に収容されて、引き上げられる。 赤土粘土は、汲み上げられた水に混じって、地上に排出される。 砂も、赤土粘土も、順調に掘り出されているにもかかわらず、井戸の深さは6.5mから変わらない。 努力の割りに成果が得られていない状況は、辛い。
 1時間連続での汲み上げ水量は、約1.74m3/時間(約29リットル/分、約480ミリリットル/秒)である。

使用した円筒
 
井戸さらい(右側に先端部の拡大)
 井戸底に砂が堆積してくると、エンジンポンプで水を汲み上げるときにその砂を一緒に吸い上げてしまう。 堆積した量が多くなると、

(1)井戸水の汲み上げに支障

(2)砂の吸い上げに伴うポンプインペラの破損

(3)送水側管路内への砂の詰まり

が生じるので、取り除いてしまう必要がある。
 その器具を左に示す。 金属製の円筒にゴム弁を取り付けて、その円筒に長いとっ手を付けたものである。 ゴム弁の位置が円筒の最下端にあるので、砂がこの部分に取り込まれ易い。
 写真には写っていないが、円筒上部に排水用の穴が開けてある。 それは、この器具を引き上げる際に、開口部がないと、この器具内にある水が底部のゴム弁の隙間から流れ落ちることになって、このとき砂も一緒に流れ出てしまうから。

(11)設備の更新

新しいエンジンポンプ

井戸の中に伸びる吸水管
(右側の配管が吸水管で、
左側は畑への送水管、
その太さに違いが!)
 井戸の掘り下げは6.5mから進んでいない。 25mmの塩ビ管(延長40m)と32mmの排水用チューブ(長さ20m)を繋いだ総延長60mの水路を経て潅水している限りでは、1時間以上の連続汲み上げが可能なほどの湧水量であるから。 そのときの汲み上げ水量は、約1.74m3/時間である。
 なお、井戸の中に伸びている吸水管は、ある時期から40mmのVU管を使っている。 同じ40mmのVP管に比べて軽いのと、肉厚が薄い分だけ内径が大きいことが、その変更理由である。 吸い上げであるので最大1気圧に耐えられる材料であれば、問題はない。
 もう少し細かな事を考えてみる・・・・・
 ポンプ部分を中心にして、(a)「地下水源からポンプへの吸水管での水の動き」と、(b)「ポンプから撒水するまでの送水管での水の動き」についてである。 (a)では、ポンプへの吸水管の中の水を押す力は大気圧である。 自吸式である限り、その最大値は1気圧である。 高効率のポンプを使っても、1気圧以上にはできない。 吸水管中の水の動きは、それ故、吸水管の内径と経路によって決まってしまう。 (b)では、送水管の中の水を押す力はポンプによる送液圧力である。 高性能なポンプであれば、5気圧とか10気圧で送ることができる。 したがって、送水管中の水の動きは、ポンプの送圧性能によって決まる。
 吸水管を流れる水量と送水管を流れる水量は等しいから、揚程20m以上の性能の(すなわち、大抵の)エンジンポンプでは、全体の流量を左右するのは吸水管側の構造である。 たとえば全揚程40m(4気圧に相当する)のエンジンポンプを使って、6.5mの深さから汲み上げる場合を考えてみる。 吸水のために、「1気圧」分の仕事が使われる。 それ故、送水のための送出圧力として「3気圧」分の仕事がなされる。 送水管側には吸水側の8倍強の圧力損失(*21)が許される。 吸水側の圧力損失が、送水量に大きく影響することが分かる。 したがって、送水管の内径が吸水管よりも小さくても、影響は少ない。 これが、送水管側は25mmのVP管を使っているのに対して、吸水管は40mmのVU管にした理由である。
 さて、エンジンポンプは数年間使っているので、ガタがきている。 使用初期の井戸の掘削に活用していたときには大量の土砂を吸い上げていたので、「インペラ」が激しく摩耗している上に「エンジン」も無理をしていて調子が良くない。 買い換え時である。 これまでに使っていた機種よりもワンランク大きいエンジン出力4馬力で全揚程40mのものにする。 購入価格はほとんど変わらない。
 それを設置した。 以前のものと比べると、ポンプが井戸の右側となっていて配置が逆になっている。 これはエンジン起動用の引っ張り紐の位置が違うためである。 同じポンプメーカーであっても、使っているエンジンの機種による差である。
 使用してみると、「インペラ」が新品であることとエンジン出力が大きいので、標準の回転速度では汲み上げ水量は数倍になる。 この汲み上げ状態では、20分ほどで井戸水が空っぽになってしまう。 定常的に汲み上げができる状態を探ったところ、アイドリング回転を若干上回る回転数であった。 それでも、以前のポンプを使っているときより、汲み上げ量が多いようである。 エンジンの回転数が低くてエンジン音も抑えられるので、その点でも好都合である。 細かな点は、多量の灌水が必要な夏場に明らかになってこよう。
 

(*21) 吸水側では、深さ6.5mの水をポンプまで吸い上げるために、0.65気圧を要する。 その結果、吸水管中を水が流れるときに生じる抵抗の値(圧力損失)は、従属的に決まってしまう。 それは0.35気圧である。
 送水側については、高低差がない場合、流れによる圧力損失のみである。 ポンプの能力が40メートル高さである(4気圧に相当する)とき、それは3気圧となる。 送水側の圧力損失が3気圧まで許されるのに対して、吸水側のそれは0.35気圧にすぎない。 その比は、約8.5である。


自吸式ポンプを使用したときの配水系の圧力(絶対圧)分布

  この図では、圧力は「絶対圧」で示している。 圧力としては、これ以外に、「ゲージ圧」がある。 ゲージ圧とは、大気圧の状態を「0気圧」とする圧力表示である。 「プロパンガスのボンベ」や「蓄圧式の消火器」に取り付けられている圧力計は、ゲージ圧の圧力計である。 ボンベなどの内部の圧力が、大気圧(絶対圧で1気圧)まで下がれば、それ以降はプロパンガスや消火液は、出てこなくなる。 したがって、その状態の圧力(絶対圧で1気圧)を0気圧と表示する方が、使用可能な残量を知る上で都合が良い。 気象測器としての気圧計は、もちろん、大気圧を1気圧とする絶対圧の圧力計である。 かくして、世の中には、「絶対圧」と「ゲージ圧」が、それを測る計器としての「絶対圧の圧力計」と「ゲージ圧の圧力計」が、混在することになる。 有毒ガスのボンベがある。 そのボンベの圧力計は、0気圧を示している。 圧力が「0」であるのでボンベ中には有毒ガスはないものとして、何の処理もしないで廃棄処分をしても良いと・・・?
 さて、吸水側の圧力損失である0.35気圧は、吸水管が細かったり、その流路が曲がりくねっていると、より小さい流速でこの値になってしまう。 その流速以上では、汲み上げることはできない。 送水側の圧力損失の最大値は、3気圧である。 圧力損失がこの値になる流速まで許される。 吸水側で決まる流速の最大値と、送水側で決まる流速の最大値を比べて、その小さい方がこの配水系の「最大配水流量」となる。 圧力損失の比が約8.5であるときには、大抵の場合、「最大配水流量」は吸水側の流路で決まってしまう。
 ポンプエンジンの回転数を上げていくと、ある回転数までは送出される水の量が増えていくが、それ以上ではほとんど増えない 原因は、圧力損失は流速の増加にともなって大きくなるためで、上の例では、吸水側で圧力損失が0.35気圧になる流速を「超えることができない」ことにある。
 もし井戸が深くてその地下水面がマイナス8mであればその比は15倍となって、吸水管側の流路抵抗だけで全体の配水流量が決まってしまうことになる。 このようなときには、できるだけポンプエンジンを井戸の近くに設置して、吸水管側の流路抵抗を極力低減することや、できるだけポンプエンジンを低い位置に設置することで、吸水管側に許容される流路抵抗を増大させる(細い吸水管の使用などにより流路抵抗を大きくせよといっている訳ではない。流速が大きいなど流路抵抗がより大きくなる条件で水を流せることを意味している)ことを心掛けるべきである。
 取扱説明書などでは、吸水管と送水管の管径をできるだけ等しくするように指示されていることが多い。 これは、いずれの管にも同じ流量の水が流れるから、同じ管径であるべきだとの思い込みによる記述であろう。 そのような記述を鵜呑みにすることで、送水側に大口径配管による過大な設備投資をしたとしても、それによる効果は期待に反してまったく限定的であることを意味している。
 使用する「エンジンポンプの能力」、「汲み上げ高さ」、「送水長」に基づいて最適な送水側管径を割り出し、効率的な設備設計をすべきである。
 筆者の吸水送水システムで、吸水側は内径40mm(断面積12.6cm2)のVU管を、送水側は内径25mm(断面積4.9cm2)のVP管を使用した理由である。


(12)6.4mから11.7mまで
 
掘削用のパイプ上部下部
呼び径20mmの塩ビ管(外径26mm)
左側:塩ビ管に接続しているホース
 −水を送り込むためにエンジンポンプに繋げて−
右側:塩ビ管の最下部
 −使用後の角がすり減った打撃用の金具−
 現時点での井戸の掘り下げ深さは、おおよそ6.5mである。 その汲み上げ水量は1.74m3/時間程度であって、畝間潅漑時に、畝間全体に行き渡るまでに長い時間が必要である。 何日も降水がないときには、末端に水が届く前に、井戸の水が涸れてしまう。
 そこで、井戸を更に掘り下げることにする。
 井戸の深さが約6.5mの所までは井戸枠を入れているので、直径20センチメートル程度の穴径で掘ってきた。 これより深いところをこの直径で掘り進めることは、かなり困難である。 そのため、掘削用のパイプが入る程度の穴径で掘り進めることにする。
 呼び径20mm(外径26mm)の塩ビ管に、エンジンポンプを使って、水を流す(左図の左側)。 その水は、最下部から噴出する。 その部分には、打撃用の金具を取り付けてある(左図の右側)。 噴流水の勢いと、打撃金具による物理的な力で、穴を掘っていく。 「噴流水」によるものは、粘土や砂でできている地層の掘削に有効である。 「打撃金具」は、礫からなる地層に向いている。 この「掘削作業」に加えて、エンジンポンプによる「6.5m付近の井戸水を外部に排出」するための吸水作業を併行する。 後者の「吸水排出作業」は、掘削で生じた泥水などを除くためであるが、それによって掘削している地層の状態を知ることができる利点がある。
 
粘土・砂層から掘り出されたもの
青味を帯びたシルトと砂の混合物

赤色の粘土層から掘り出されたもの
オレンジ色の粘土
(青味を帯びたシルト質砂とは対照的な色)

このときの井戸のおおまかな姿
 掘削は、深さ6.35メートルから開始した。 前回の掘削後に、井戸の底が10センチメートル以上、埋まっていたことになる。 この部分は「礫」に「粘土」が絡みついた『雷おこし』状態の地層である。 掘削金具で打撃を加えても、「礫」周りの「粘土」がクッションの役割を働いて、礫がポロリと外れることも粘土部分が掘れることも、ない。 掘り下げが困難であるとして、お手上げ状態であった部分である。
 この掘削法では、噴流水により「粘土」部分を取り除き、「礫」を浮かしてしまうことができる。 浮いた礫の小さいものは、水流で運ばれてしまう。 掘削する穴径は、呼び径20mmの塩ビVP管(最大径は接続用ソケットの外径である33mm)が抜き差しできる程度の大きさである。 「金具による打撃」と「金具の回転」に「噴流水による礫の移動」が加わって、徐々にではあるが、掘り進んでいく。 ある時点でパイプを持つ手に、コツンコツンという感覚から、ヌルッとしたものに変わった。
 「排出作業」で得られる泥水の状態から、地層の様子を覗うことができる。 「礫層」を抜けて「粘土・砂層」に入ったということである。
 「粘土・砂層」には、粘土質のものからシルト、細砂までが混在しているようである。 その内の「シルト」〜「細砂」の様子について、左図に示す。 それらは、全体として青味がかった色をしている。 還元型の鉄イオン(2価イオン)の色か?  この部分の掘削は、「噴流水」の独壇場である。 一瞬にして、50センチメートル、1メートルと掘り進んでいける。 「掘削作業」よりも「排出作業」に、かなりの時間を要する。
 深さが10メートルになった頃に、赤い粘土層になった。 赤色の泥状のものが汲み上げられ、「粘土・砂層」のときとは違って、粒子状のものは見られない。 これは深さ5メートルでの赤色粘土層とよく似ている。 この10〜20センチメートル程度の赤い層を抜けると、「細砂を含む粘土層」になった。
 深さが11.5メートルを越えると、またまた、「礫層」にぶつかった。 掘り下げが困難になった。 今回の掘り下げは、11.69メートルの深さで一応の終わりとする。
 井戸の概観を左に示す。 井戸の上部は井戸枠(直径約15センチメートルの塩ビ管)がある。 下部井戸は素掘りの状態である。 吸水管は、上部井戸の下端まで延びている。 井戸の下部にまでは挿入されていないので、その部分にある地下水を直接に汲み出すことはできない。

地層の断面と井戸の位置関係
(断面図の左側が北西方向である)
(a)井戸の位置        
(b)段丘崖上段に広がる集落  
(c)段丘崖          
(d)段丘崖下段面に分布する集落
(e)段丘崖下段の水田地帯   
 周囲の地形と掘削した井戸の位置関係を示す断面図(*22)「国土地理院 地理院地図」から引用)を、左図に示す。
 さて、戦後経済が発展する前まで「(b)段丘崖上段に広がる集落」と「(d)段丘崖下段面に分布する集落」の双方が「(e)段丘崖下段の水田地帯」で水稲栽培による農業に従事していた。 いずれの集落も江戸時代初期に定着したということである。 そのときに、河岸段丘を形成した河川による洪水を完全に避けられる前者への集落形成か、水稲を栽培する上で管理・輸送に有利な後者かを、それぞれに選択した結果である。 筆者の先祖は洪水を避けられることを優先して前者を選んだと思われる。 戦後から昭和40年代にかけての当該河川による数度の洪水被害を考えると、先見の明に感謝したい。
 閑話休題、今回の掘り下げで到達した井戸の下端は、段丘下段面にある水田よりも低い位置にある。 水田の層に帯水している地下水が、約250メートル離れている井戸の底部に流れ込むことは、それらの標高の差から、充分に可能である。 しかし、その地下水を汲み上げることは、

(1)吸水管の下端が、水田の標高よりも高い位置にあることから、吸水できないこと

になる。 また、吸水管下端が、井戸の底の地下水の位置に達していたとしても、

(2)通常の自吸式ポンプでは、汲み上げ高さが10メートル以上になり、汲み上げが不可能であること

から、利用できない地下水であるといえる。
 この井戸では、数メートル深さで湧水が認められることから、水道(みずみち)は左図の左方から延びてきているものと思われる。 逆の右方からの水道の存在を仮定すると、その水道にある地下水は段丘崖から流出してしまうはずであるから、そのような水の流れは考えられない。 更に深い地層についても、左方から延びてきている水道の存在が期待される。 その地下水に水頭(圧力)が掛かっていなければ、水田の帯水に由来する地下水と同じように、ポンプで汲み上げることはできない。 もし、左方の標高がより高い地点での降水に由来しているものであって、数メートル程度の水頭(圧力)がその地下水に掛かっていれば、その地下水の水面が数メートル分だけ上昇して、汲み上げは可能となる。 その地下水に十数メートル程度の水頭(圧力)が掛かっているなら、自噴することになる。

エンジンの燃料消費量と汲み上げ速度の関係
横軸:燃料(ガソリン)の時間あたりの消費量(ガソリン消費速度):相対値
縦軸:時間あたりの汲み上げ量(汲上速度:m/時間)         
   ガソリン消費速度に対する汲み上げ速度の比(汲上効率):相対値  
   汲み上げに要する時間を考慮した汲上効率(実効汲上効率):相対値 
 「エンジンの燃料(ガソリン)消費量」と「汲上水量」の関係を見てみる。 送水側には、内径18ミリメートル、長さ50メートルのビニール製ホースを接続している。 吸水側に比べて、送水側の流路抵抗が大きい。
 エンジンの回転数を上げれば、単位時間あたりに汲み上げられる水量(汲上速度)は大きくなるはずである。 「単位時間あたりに消費される燃料(ガソリン)の量」を横軸に、「汲上速度」を縦軸にして描いたのが、左図の「赤色」で示されている関係である。 ただし、単位時間あたりに消費されるガソリン量は、相対的な値をもちいている。 ここで、大きく回転数を上げた状態では、「汲上速度」が頭打ちになってしまうことは、(11)「設備の更新」の注釈(*21) で説明している。 このとき、同じガソリン量で比較して、汲み上げられる水量(汲上水量)が多い方が好ましいので、エンジンの回転数を上げれば良いとは限らない。
 そこで、「単位時間あたりのガソリン消費量」に対する「単位時間あたりの汲上水量」の比(汲上効率)を、左図の「青色」で示す。 低速の回転数で「汲上効率」が良い。 この回転数領域で、「インペラ」が効率よく水を捉えているようである。 中速の回転領域で、僅かな上昇が見られる。
 「汲上効率」が高い低速の回転数領域が好ましいように思われる。 しかし、低速の回転数領域では「汲上速度」が小さいので、灌水に要する時間は長くなってしまう。 「汲上効率」が高くても、灌水に要する時間が長くては、効率が良いとはいえない。 灌水に要する所要時間を考慮した汲上効率(実効汲上効率)を、左図の「緑色」で示す。 これでは、低速の回転数領域での運用は勧められない。 中速の回転領域で、効率が良いようである。

 

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