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キュウリは夏に必須の野菜だ。
したがって、夏が終わるまで収穫できるように思われるが、今の品種は、案外、暑さに弱い。
露地栽培だと、盆前に、収穫が終わってしまう。
今までに栽培してみたものは、「さつきみどり」、「霜知らず地這」、「シャキット」、「つばさ」、「ときわ地這」、「夏すずみ」、「南進」、「Vアーチ」、「Vロード」、「フリーダム」、「北進」、「美貴緑」など。
その中で、ここ20年以上連続して作付けしているのは、「つばさ」である。
「つばさ」の良いところは、食味がよいキュウリの中で、暖地の露地で栽培したとき比較的暑さに強いところにある。
ただ、この「つばさ」は、種1粒の単価が当初に比べると高くなってしまっているので、栽培全体のコストパーフォマンスが良くない。
それを考慮して、このところ、「美貴緑」を取り入れている。
暑さに強いところがあるキュウリとして「四葉」系統があるが、食味に関して、個人的には、好きではない。
それ以外の品種は、試作してみても、次作の時の栽培リストに載せるのを忘れてしまっている程度のものである。
暑い時期の樹勢を保つために、接ぎ木栽培を取り入れ始めた。
接ぎ木をすれば、上に述べた2品種以外に、夏期の露地栽培で優れた特性を発揮するものがあるかもしれない。
ただ、実生での栽培で得た経験が、他の品種を選択するのを邪魔してしまう。
接ぎ木栽培での比較試験の結果があれば、品種選択の参考にできるのに・・・。
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(1)品種
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毎年のように栽培するキュウリは、「つばさ」と「美貴緑」である。
「つばさ」は長年栽培している品種であるが、暑さには強くない。
露地栽培で、品質のよいものが採れるので、愛用している品種である。
「美貴緑」は、暑さに強いというキャッチフレーズを信用して栽培したのであるが、他の品種よりこの点では優れているようである。
秋採りにも使えるということから、一部の種を、秋採り用にまわすことにしている。
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(2)育苗
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播種4週間後のキュウリ
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4月初旬に、直接ポットに播種した。
暖かくなってきたので、加温なしで育苗する。
順調に発芽、生長している。
ポットのままで、定植まで育苗する。
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(3)定植
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定植10日後の「つばさ」
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「美貴緑」
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(4)定植後5週目
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定植してから5週間経過した。
「つばさ」が収穫できるようになった。
「美貴緑」も同様。
いずれも、初成りであるので、形がいびつで見てくれが悪いが、「初物を食べると75日寿命が伸びる」といわれているから、さっそく食卓にのることになる。
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(5)盛夏のキュウリ
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「つばさ」
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「美貴緑」
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7月末のキュウリである。
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キュウリの「つばさ」は、いつもより早く、枯れ上がってしまっている。
充分に潅水をしているので、水不足が原因ではない。
1週間前の台風に吹かれた影響か?
例年よりも、2週間ほど早い。
8月の盆頃の状態である。
キュウリは夏の野菜であると思っているが、暖地の露地栽培では、初夏までのものである。
品質がよくて、暑さと乾燥に強い品種の開発を、期待したい。
「美貴緑」は、「つばさ」と違って、下葉は茶色くなってきているものの、成り枝は今でも青々している。
最盛期ほどではないが、自家消費分ぐらいは、収穫できる。
「美貴緑」の欠点は、収穫が遅れると、果実の内部に空洞ができてしまうことである。
しかし、この時期に枯れ上がってしまう「つばさ」に比べたら、上々である。
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初夏播きの「美貴緑」
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定植直後
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7月初旬にポットに播種した「美貴緑」の定植苗は、充分に灌水しておかないと、下の葉から焼けてしまう。
朝晩、溝に水を流してやる。
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成長期
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この時期のキュウリは、ウリハムシによる食害があって、まともに育たないことが多い。
殺虫剤を撒けば、順調に育つだろうけど、そんなものを食べる気がしない。
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(6)呼び接ぎによる接ぎ木
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「つばさ」の呼び接ぎ
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「美貴緑」の呼び接ぎ
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呼び接ぎの方法で、接ぎ木した(*1)。
接ぎ木部分の断面がヒョウタン形であるので、ナスやトマトに使ったシリコーンチューブでは、密着性が良くない。
同様に、接ぎ木クリップも、台木と穂木とを圧着するには適当であるが、接ぎ木部分を密封するには隙間が多い器具である。
ここでは、伸張性が強く、気密性に優れたパラフィン系のフィルム(プラスチックパラフィンフィルム)を、使うことにする。
使用直前に引き延ばしておくと、柔軟な状態になって、適度の引っ張り力とフィルム間の接着性が生じる。
この状態のフィルムを、接ぎ木部分に巻き付けることにより、ほぼ密閉状態にでき、接ぎ木部分の固定と水分の蒸散防止が図れる。
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接ぎ木(模式図)
A:台木の軸
B:穂木の軸
C:穂木の内側
D:穂木の外側
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普通におこなわれている呼び接ぎ法(野菜前線 - タキイ種苗やキュウリ接木など)では、台木の接ぎ木部分での斜め切り下げ部分と、穂木の斜め切り上げ部分を、噛み合わせる。
その場合、左図のCの接合面は、台木、穂木ともに、切断面が接触しているので、癒合することになる。
ところが、Dの接触面は、台木は切断面であるが、穂木は軸の外側表面であるので、そのままでは癒合することはない。
そのため、接ぎ木苗になったとき、穂木の片側(左図のCの接合面)だけが、台木と繋がっているにすぎない。
Dの面はくっついていないので穂木の片側が剥がれてしまう (・・・“呼び接ぎ”の最大の利点は、穂木・台木共に根を残す為、接ぎ木後の管理が簡単になります。しかし、接合面が若干脆くなります・・・)原因となり、接ぎ木部分が非常に不安定になってしまう。
そこで、穂木軸の外側表面(Dの穂木側部分)を、軽く削っておく。
それによって、Dの部分も、癒合する。
穂木の両側面(CとD)が台木と繋がること で、穂木が台木に安定して固着する。
このような工夫をしても、移植の際などに、穂木部分が台木から剥離してしまうことが、往々にして生じる。
台木と穂木の双方に根があることによる枯れ上がりの恐れがないという利点よりも、台木からの剥離により植え付け作業が困難になるという欠点が、どうしても気になる。
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呼び接ぎによる接ぎ木苗
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接いだ部分
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定植直後の状態である。
「呼び接ぎ」による接ぎ木苗である。
左下側の小判型の濃い緑色の葉が、台木の子葉である。
その子葉の上に重なっている虫食い穴のある葉が、穂木の1番目の本葉である。
接いだ部分を拡大した図で、左側の軸が台木である。
その右側の軸が、穂木である。
穂木の軸は、下方で切断してある。
台木と穂木が噛み合って融合している所が見える。
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定植して3週間
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順調に生育している。
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(*1) キュウリの台木には、「鉄かぶと」を使用した。
穂木は、「美貴緑」 である。
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咲き始めている花
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(7)断根割り接ぎ
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断根割り接ぎは、台木であるカボチャの軸を双葉の下で切断して、接ぎ木する方法(*2) である。
台木として「鉄かぶと」を使う。
台木は、双葉の間から本葉がわずかに出ている状態のものを使う。
双葉の下4cmの位置で、軸を切断して、根から切り離す(*3)。
台木の成長し始めている小さな芽を、丁寧に掻き取る。
その掻き取った所から、下に向かって5mm程度の切れ込みを入れる。
この切れ込みに穂木を挿入するのであるが、穂木と接触するところが、台木の中でも最も成長の盛んな部分であることが好ましい。
この部分では、癒合のための組織である「カルス」の形成が速やかに起こる。
切れ込みが深いと、台木と穂木との接触部分が、最も成長の盛んな部分よりも下方にずれてしまう。
この位置では、「カルス」の形成に時間がかかる。
切れ込みを入れるときに注意すべきことは、左図に示されている「台木軸の表皮」(軸の外周部分)の「A」は、割らないこと。
この部分を割ってしまうと、
(1)台木の割れ目部分にカルスが形成し、そのカルスから台木の成長点が再生し、芽欠きしたはずの台木の芽が成長してしまうこと
(2)定植するときなどで穂木の取り扱いを丁寧にしないと、台木と穂木との癒合が外れてしまうこと
などの不都合なことが生じる可能性が高まってしまう。
そのため、切れ込みを台木の2枚の双葉を結ぶ線上に入れると、双葉の軸により、それを防ぐことができる。
切れ込みの下端「B」は、台木の軸から外へはみ出しているようにすると良い。
それによって、この下端部分で、「台木の形成層」と「穂木の形成層」とが必ず接触することになって、接ぎ木の成功率が高まる。
穂木には、「つばさ」と「美貴緑」を使う。
その双葉から2cm下方を、V字型に削る。
V字の長さを、5mm程度とする。
このようにすることで、穂木の削られた部分が、台木の最も成長の盛んな部分に接触することになる。
接ぎ木部分は、気密性に優れたパラフィン系のフィルムを巻く。
パラフィン系フィルムをストリップ状に切って、少し引き延ばしておく。
すると、適度の引っ張り力とフィルム間の接着力が生じる。
2本の指で穂木が挿入された台木部分を押さえて、穂木が台木の挿入位置からずれないようにする。
ストリップ状フィルムを(フィルムが拗れていても、そのままで)、2本指の先で台木を数回ほど巻き付けて、兎に角、台木と穂木を固定してしまう。
その後、残りのフィルム部分の拗れを直して、ゆっくりと丁寧に、穂木を差し込んだ台木部分に巻き付ける。
巻き付けは、穂木が台木に固定さているので、台木をクルクルと回しながらおこなうと、フィルムが拗れずに綺麗にできる。
接ぎ木部分をほぼ密閉状態にでき、接ぎ木部分の固定と水分の蒸散防止が図れることになる。
ポットに接ぎ木用の(即効性の肥料分の少ない)培土を入れて、5mm程度の深さの水を張った水盤に置いて、充分に水を浸ませておく。
このポットに、穂木を接いだ(根から切り離されている)台木を、差し込む。
ただちに、ポットを(水盤に置きっ放しにしないで)育苗箱に移す。
85~90%の湿度を保って遮光した温室内で養生する。
数日間は、穂木に多少の萎れが見られる。
接ぎ木直後には萎れていた穂木も、5日ほどで、台木が発根し始め、接ぎ木部分が癒着する。
1週間も経つと、穂木が成長してくるのが分かる。
接ぎ木後10日で、穂木の本葉が1.5枚程度になる。
「断根割り接ぎ」による成長の具合を、「呼び接ぎ」と比較すると、ほとんど遜色がない。
むしろ、接ぎ木部分がしっかりしているので、苗の管理が容易である点で優れているようだ。
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(*2) 「大学農園 / 接ぎ木(きゅうり断根挿し接ぎ トマト割り接ぎ)」では、動画によって接ぎ木の方法が紹介されている。
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(*3) 台木であるカボチャを、根から切り離して接ぎ木している。
この方法での接ぎ木の成功率は、8割以上である。
慣れれば、もっと良い成績を上げられるに違いない。
断根しないで、台木に根がある方が、接ぎ木の成長が良いように思われる。
しかし、試してみると、その場合には穂木の癒合が芳しくなかった。
萎れていた穂木が、いつまで経っても、元気になってこない。
いつの間にか、穂木が枯れてしまっている。
接ぎ木の成功率は、接ぎ木技術の優劣を含めて、並みのプロ野球選手の打率程度である。
これでは、根がある状態での接ぎ木法は、採用できない。
断根接ぎ木と有根接ぎ木に、これほどの差があるのは、驚き以外の何ものでもない。
しかも、好ましいと考えられる有根の接ぎ木の方が、案に相違して、上手くゆかないようだ。
予想外であった。
要因を推測してみよう。
断根することによって、発根を促す「生理活性物質」が、台木細胞中に作られる。
その「生理活性物質」が、穂木との癒合に必要なカルスの発生にも、寄与する。
その結果として、穂木が台木に、速やかに、癒合することになると・・・。
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接ぎ木後1週間
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接ぎ木部分 (穂木が太くなっている)
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接ぎ木後10日
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定植 (左右の双葉は台木、上下の双葉は穂木)
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定植1ヶ月後の「つばさ」
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「美貴緑」
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定植から1ヶ月が経過した。
「つばさ」と「美貴緑」の成長スピードは、ほとんど変わらない。
上へ上への伸びている「つばさ」は、既に雌花が咲き、もうすぐ初成りの実が収穫できる状態である。
見た目には枝葉が疎々としているので、株間が広すぎるように見えてしまう。
「美貴緑」にも、明日にも咲きそうな雌花がある。
枝葉が横へ横へと広がってきている。
「つばさ」の着果が早いのは、この成長段階では側枝がつかないからである。
放任栽培では、主枝がただひたすら伸びていくだけである。
「美貴緑」では側枝が次々に伸びてきている。
「つばさ」のスマートな樹形に対して、「美貴緑」のモコモコとした姿が印象的である。
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5週目の「つばさ」
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「美貴緑」
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定植して5週目の 「つばさ」
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5週目で着果した 「美貴緑」
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「つばさ」の接ぎ木部分
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「美貴緑」
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同じ露地での栽培で比べると、現時点では、実生栽培の方が成長が進んでいる。
実生栽培では、定植して1ヶ月頃から収穫が始まっているから。
「美貴緑」は、「つばさ」に比べると若干「トゲ」が多い。
果実の切断面を見ると、やや荒さが見られる。
見た目には、「スーヨー(四葉)キュウリ」に少しばかり似ている。
ただ、「スーヨーキュウリ」には見られる表面の「皺」状の波うちは、まったくない。
食味は、食べ比べてみると、好みによって評価が分かれるであろう。
接ぎ木栽培の本領は、盛夏での樹勢である。
初夏から収穫している実生のものは、8月のお盆頃には、ほぼ枯れ上がってしまう。
接ぎ木のものが、この後いつまで収穫できることになるか、楽しみである。
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1ヶ月半後の「つばさ」
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「美貴緑」
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定植して1ヶ月半が経過した。
「つばさ」の側枝の発生は、緩慢である。
この時点で伸び出している側枝は、1つ程度。
樹形が、スッキリしている。
「美貴緑」は、次々と側枝が出てくる。
枝葉で一杯になっている。
初期の生育を比べると、「つばさ」は主枝が伸びていくが、側枝の成長は緩慢である。
枝葉に隙間が多い状態である。
「美貴緑」では、主枝と同程度に側枝も成長していく。
アッという間に、枝葉で埋め尽くされてしまう。
どちらも、1本の株から収穫できる量は変わらない。
枝葉の茂り具合と実の収穫は、関係はないようである。
食べて美味しいのはどちらかというと「つばさ」である。
この「つばさ」、実生での盛夏取り栽培では、枝葉が突然のように枯れて収穫終了になってしまう。
接ぎ木をしたことで収穫期間が延長できれば、この欠点を補えることになる。
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